わたしが猿野くんと御柳くんに拾われた(そうだ文字通り拾われたのだ、かわいそうな捨て猫みたいに)のは昼間の熱気を存分に残した生温い空気が淀む、日付もそろそろ変わろうかというのに蛍光灯だけは白白と明るい駅の構内で、同居している友達とつまらないことで喧嘩をして(夕食後に食べようと取っておいたコンビニのマンゴープリンを食べたとか食べないとかそんなほんとうにつまらないことだったのだたしか)家を飛び出してからとりあえず毎日の習慣のせいなのか、部屋着にしている薄っぺらなワンピース1枚にミュールをつっかけただけの格好でいつも通りの道を通って駅に着いてしまって、さてどうしようかと我に返って猫神様を抱きしめているだけで財布もケータイも持っていないことに気付いて途方に暮れて自分のあまりの間抜けさに涙が滲みかけたところをおじょーちゃんひとりなの?どっか遊びにでも行かない?なんてどこから見ても品が良さそうには見えない痛んだ金色の髪とにやけた口元とやたらきつい香水のたぶんほんとは爽やかなはずの柑橘系の香りをひどく不快に撒き散らかす見知らぬ男に迫られて壁に貼られた青春18きっぷのポスターに印刷された真っ青な海に背中がくっつくほどに追いつめられたときだった。
「おう猫湖ごめんな待った待った?」
しつこく声を掛けてくる相手を軽く躱して逃げるなんてもともと話すことの得意じゃないわたしに出来るはずなくて、俯いて相手の薄汚れたアディダスのスニーカーの紐やわたしのシルバーのミュールのスパンコールなんかをただ視界に映しこんで時が過ぎて目の前の人が諦めてどっか行ってくれるのだけを待っていたら、わたしの名前が突然予想もしない方向から聞こえてきてびっくりして顔を上げた。
改札の左手にあるシャッターの降りた売店のほうから手を降って小走りで近寄ってくる姿にはもちろん見覚えがあった。
わたしが知っていた頃より、ほんのすこしだけ身体つきが華奢になっていたみたい(そのことを言ったとき猿野くんはおう部活辞めっと筋肉ってほんとすぐ落ちんのな俺びっくりした、と屈託なくそう言った)だけれど、勝ち気な明るい茶色の瞳はあの頃のままだった。
猿野くん?というわたしの言葉はたぶん声にはなってなかったとおもう。
猿野くんは金髪男を押しのけるみたいにわたしの右腕を掴んで、どしたの猫湖、知り合い?と言ったけどわたしは猿野くんのいきなりの登場にびっくりしてしまって言葉の意味を理解するのにだいぶ時間がかかってしまった。
わたしの右腕を掴んだ猿野くんの右手にちょっとだけ力が込められて、そこでようやくわたしはどうやら助けてくれるらしいということを察して、一生懸命首を横に振った。
「知り合いじゃない、かも」
猿野くんは笑って、んじゃ行こうぜ、悪いねおにーさん、と金髪男にも一声かけて、わたしの腕を掴んだまま壁と金髪男の間からわたしを引っ張り出してくれた。
残された金髪男がどんな顔をしていたのか、見ていないからわたしは知らない。
早足で歩く猿野くんに引きずられるみたいに進んで、駅前のロータリーに続く出口を潜ろうかというところで猿野くんは、ごめんな迷惑じゃなかったか?なんて今更訊くからわたしはちょっとおかしくなって、くすりと笑ってからすごく助かったありがとう、って言ったのだ。
そしたら、浮気していーんかよ猿野、って今度はわたしたちの後ろから声がして、そっちを振り向くとそこにはちょっとは知ってるけどよくは知らない御柳くんがそれでもわたしのちょっと知ってた頃から変わらないくちゃくちゃと風船ガムを噛んだ姿で立っていた。
猿野くんは慌ててわたしの腕を離すと、同時にバッカ違ぇよこれは十二支ン時のマネージャーだよ!と御柳くんに食って掛かったけど御柳くんはにやにやしたまんま凪チャンだって十二支のマネージャーっしょいいのかなあ俺チクっちゃおうかなあなんて言っている。
あんまりよく知らない御柳くんの口から凪ちゃん、というよく知った名前が出たことにもびっくりしたけど、それ以上に御柳くんがここに居ることにわたしは驚いていた。
埼玉の地方都市のそんなに大きくないけど小さくもない、中途半端な規模のこのJRの駅は、十二支高校の最寄り駅からはそう遠くないから、猿野くんが偶然とはいえ居合わせてわたしを助けてくれたのにはなんとなく納得できていたのだけれど、御柳くんの居た華武高校はここから電車とバスを乗り継いで30分はかかるはずだ。
でもよくよく考えてみれば華武のような名門の私立高校は県内やときには県外からも多くの学生が集まるから、わたしと猿野くんがたまたま遭遇したところに、さらにたまたま御柳くんが居たとしてもちっとも不思議ではないのかもしれなかった。
ほんとうのところは全然たまたまではなく、猿野くんと御柳くんには彼らなりの理由があってこの場に居合わせたのだと(バブリシャスのストロベリーキウイ味が食べたかったけど近所になんでかなかったから探しまわってたんだよこのガソリン高騰時代にアホだよなアホと猿野くんは御柳くんを罵ったけど付き合ってあげる猿野くんも同類じゃないのかなあとわたしはおもった、黙っていたけれど)いうけれど、そのときはそんなこと勿論全然知らなかった。
「ちげーよだからこれはなあこいつが困ってたから助けてやったんだよなあ猫湖ほらおまえもなんとか言えよ!」
わたしの背中を押して御柳くんの前に押し出した猿野くんの剣幕に押し切られるみたいに、う、うん、と頷いたけど、御柳くんはほんとかあ嘘くせえなあとにやにやしている。
「あ、そうだ猫湖、今日どうしたんだよ、帰るとこだったのか?だったら送ってやろうか」
気を取り直した猿野くんが(切り替えの早いところはあいつの長所だなと羊谷監督はよく言っていた)そう言うと即座に、えー、と御柳くんがいかにも厭そうな声を出したけど猿野くんはそれを無視して家どこだ?一人暮らしだったか?とわたしに尋ねた。
あの、あの、とわたしが言い淀むのを猿野くんはわたしの顔をじっと見つめたまんま待ってくれてたぶんたっぷり30秒は経過しただろうって頃に御柳くんがもしかして迷子?と失礼な言葉を発した。
ハア!?迷子!?と猿野くんが大声を上げたのでわたしは慌てて否定したけど、んじゃどしたんだよと問い返されるとやっぱり言い出しづらくって、それでも猿野くんが真面目な顔でわたしのこと見てるから意を決して友達と喧嘩して家出、と事の真相を告白したのだ。
猿野くんはちょっと眉を下げてそうか困ったなあと言ったからわたしは居たたまれなくなって、顔はつい下を向いてしまい、猫神様を抱えた左手にちょっとだけ力が入ってしまう。
沈黙が落ちる。
気まずい。
駅前のショッピングビルから吹き下ろす温い風が、無人のロータリーを吹き抜けてわたしの髪や頬をくすぐった。
湿った大気の中に、夏の匂い。
泊めてやれば、と誰かが言った。
誰かといったってわたしが言ったのじゃないし猿野くんの声でもなかったのだから、その言葉を発したのは考えるまでもなく御柳くんだったのだ。
え、と驚いて御柳くんを見たわたしと猿野くんに向かって、御柳くんはもう一度、猿野おまえ泊めてやればいいっしょ、と言った。
「駄目に決まってんだろうが女の子だぞ!だいたい俺ン家ってことはお前ン家でもあるだろうが!」
御柳くんの案に即反対した猿野くんの言葉にわたしはまた驚いた。
今日は驚くことばっかりだ。
猿野くんと御柳くんの間に、面識があることくらいは知っている。
十二支高校は華武高校と何度も対戦しているし、2人とも埼玉選抜のメンバーにも選ばれていたから、そこでいくらか親しくなったのだろうということは想像に難しくない。
同じ三塁手で、ホームランバッター。
練習試合をしたこともあったし、県大会の開会式やなんかで一緒になったことも何度もあった。
猿野くんと御柳くんが話をしているところを見た事も、たぶんあったんだろうとおもう。
それでも猿野くんと御柳くんがこんなに仲が良かったなんで、そう、一緒に住むくらいに、なんてわたしはちっとも知らなかった。
「泊めてやれよ猿野、もうめんどくせーし俺さっさと帰って寝てーんだけど、おまえが本場の喜多方ラーメン食いに行こうとかしょーもねーこといきなり言い出すから俺今朝4時起きだぜ4時起き、深夜だっつーの」
「アホか俺は3時には起きてたわ!大体てめー俺が運転してるときはずっと寝てたじゃねーか!ラーメンも計7杯は食ったじゃねーか!俺ばっかが悪いみたいに言うんじゃねえよ!」
「おう、まあ悪くはなかったな喜多方ラーメン」
「だろ!太縮れ麺にダシの効いた醤油スープがよく絡んでな!じゃなくてよ!泊めれるわけねーだろ、女の子だぞ!」
ずれそうになった話題を猿野くんは無理矢理元に戻したけど、んじゃどうすんだよここに捨ててく?と御柳くんがわたしのこと犬猫みたいに言うからぐっと言葉に詰まってわたしは捨ててくってそんな言い方はしないでほしいなあとおもったけど、この場でそんなこと口に出来るほど図太い神経は残念ながら持ち合わせていなかった。
猿野くんと御柳くんの間で問題になっているのはそもそもわたしのことなのだ。
あの、今日はどこかでオールでもするから、と提案してみようかと思わないでもなかったけれど、猿野くんと御柳くんの言葉の応酬はテレビの中の漫才みたいにテンポが良くて、口を開くタイミングが掴めなかった。
はあ、と猿野くんは大きな溜め息を吐いた。
「おまえ変なことするつもりじゃねえだろうな」
「変なことって?どんなこと?」
えっちなことってことお?と御柳くんは唇にわざとみたいにいやらしそうな笑みを乗せて、わたしの洗いざらしのぐしゃぐしゃの頭のてっぺんからペディキュアの剥げかけた爪先までをじっと値踏みするように眺め回すと、うーん可愛くないことはないけど色気がなさすぎんな、俺ロリコンじゃねーし、とどこまでも失礼な事を言う。
「おまえこそそんな拒否るってかえってアヤシイんじゃねーの?やっぱやましいことでもあんの?」
御柳くんは口に含んだガムをときどき膨らませながら相変わらずにやにやしている。
猿野くんはもう一度、幾分わざとらしい大きな溜め息を吐いて、猫湖今日だけウチ泊まってくか?と言ってくれたのだ。
男の子の家に泊まったことは、なかった。
女の子同士で旅行に行くことや、映画を見に行ってそのまま終電を逃してファミレスで朝を迎えたことなんかはときどきあって、そんなときにはごくまれに男の子も混じっていたりはしたのだけれど、ほとんどは女の子の友達ばかりだった。
飛び出してきたオートロックとドアモニターのある鉄筋コンクリート3階建ての女性専用賃貸マンションの最上階の角部屋のリビングで、白いラグに寝転がってテレビでも見ているだろう同居人のことを考えた。
大学で同じ人間科学を専攻する同期生の彼女は、もみじちゃんとちょっと似た快活で面倒見のいい性格で、女の子の友達も男の子の友達も多かった。
ごめん今日は飲み会だから帰らないね、ひとりで寂しくても我慢しててね、と冗談まじりに手を振って、講堂の出口で別れることも珍しくなかった。
警戒しなかった、と言えばすこし嘘になる。
わたしの知っている1年とすこし前までの猿野くんは、女子更衣室を覗き見しては怒った女子生徒に袋叩きにされるような下品な男子高校生だったのだし、御柳くんに至ってはいかにも遊び慣れた軽薄な青年という風にしか見えない。
それでも猿野くんがほんとうは優しいところがあって目標のためにはすごく一生懸命で根性があってそして一途で凪ちゃんのことが大好きなのはわたしだって知っていたから、だから行き場所がなくて困ってしまって世界にたったのひとりも味方がいないようにおもえてしまう(大袈裟だけどさっきまではほんとうにこんな気分だったのだ、ほんとうに)こんな夜には、ちょっとだけ甘えてしまってもいいかななんておもってしまって、わたしはいいの?と猿野くんをそっと窺ったのだ。
本当は家に帰れたのだ。
閉ざされているドアを叩いて、ごめんねと謝ればわたしも悪かったごめんと彼女はきっとそう言ってくれる。
もしかしたら今頃は食べられてしまったわたしのマンゴープリンの代わりに何か美味しいものを買いに行ってくれているかもしれない。
財布もケータイも忘れて出て行ったわたしに呆れながらも心配してくれているかもしれない。
別の友達を頼ることだって出来た。
ケータイは忘れてしまったけれど、連絡なしに訪ねて行ってもそうそう追い返されもしないだろう。
それでもわたしはそうしなかった。
夏の空気がわたしにすこしだけ冒険をさせたのかもしれない。
淀んだ大気の中の水の匂い、昼間の日光の名残の匂い、土埃とアスファルトの匂い。
遠くを走る車のエンジンの音。
どこか、地に足の着かないような。
「拾ったモンの面倒は最後まで見ろってのが常識だかんな、それが出来んのは人の風上にも置けんろくでなしだ、故にしょーがねー」
そうだな、常識だな、と猿野くんは自分の言葉に納得するように何度も頷き、あっそうだ俺も今日やりすぎコージー見たいんだよさっさと帰ろうぜほら行くぞ猫湖!とわたしの背中を軽く叩くと、駅前駐車場に向かって歩き始めた。
すこし小さくなる猿野くんの黄色いTシャツの後ろ姿をぼんやり見ていると、ほら何してんだよ行くぞえーとネコだっけ?と御柳くんがわたしを猿野くんよりさらに高い視点から見下ろしていた。
ネコじゃないかも猫湖檜かも、ととりあえず名前の間違いを訂正する。
「ふーん、変な名前」
「ばかとか名前に入ってる人に言われたくないかも」
「うわ感じ悪」
むっとしてわたしはちょっと唇を尖らせる。
湿度は高いのに唇は乾いていて、薄く皮がめくれてしまっているのを感じた。
おい何してんだよ早く来いよ、と一向に後に続かないわたしや御柳くんを、振り返って猿野くんが大声を張り上げる。
猿野くんの声は駅前のショッピングビルに反響して、山彦みたいに聞こえた。
「アホが呼んでるから行こうぜ」
ヒノキ、と付け加えてぽんとわたしの頭に置かれた御柳くんの手と御柳くんの薄めの唇が初めて紡いだわたしの名前は、意地悪な物言いとは全然違ってやけに優しくて、ああそうか女の子がこんないかにもな男に騙されちゃうのってこういうギャップによろめいたりしちゃうもんなのかなと冷静に分析しながら、それでもこの数分間のやり取りでわたしの中で嫌なやつにカテゴリー分けされていた御柳くんの位置付けについては、もうちょっと保留しておいてやってもいいかなと考え直したのだ。
わたしの今夜の身の振り方を決めてくれたのは御柳くんでもあったのだし。
あとあと訊くと、あああのときな、なんかおまえすげー哀れっぽかったしな、と歯に衣着せず言われてすこし傷付いたのだけれど、でもたぶん絶対、わたしは間違ってなかったのだと今でもおもう。
たぶん、きっと。
闇にも鮮やかなスカイブルーの車体はぴかぴかに磨かれて、側に立つと魚眼レンズ越しに見たみたいに鼻がおおきく歪んでバランスを欠いたわたしの顔が映った。
数台だけが疎らに停められた深夜の駅前駐車場の、2台分のスペースを使って悠悠と停められたその車は、遠くから見るとやけに平べったい車だとおもったのだけれども、それは車高の低さよりも横幅の大きさに由来する問題なのだと近付いて分かった。
いーだろーシボレーのインパラ1967年モデル、カート・コバーンと同い年!つっても向こうは故人だけどな!そう言って胸を張った猿野くんのハーフパンツのポケットに御柳くんは勝手に手を突っ込むと、いやーんえっちー、と黄色い声を上げて身体をくねらせる猿野くんを無視してうどんの丼に浸かった目玉のおやじのキーホルダーのついた鍵を取り出し、さっさと左側のドアを開けて乗り込んでしまった。
舌打ちをしてこの芸人キラーめと毒突いた猿野くんはすぐに表情を緩め、まあ乗れと誇らし気に御柳くんが乗ったのとは対角線上の、後部座席のドアを開いた。
頭をぶつけないように気をつけてドアを潜る。
むっとする生暖かい空気の充満した車内でまず目についたのは、無造作に置かれた空になった2リットルの緑茶のペットボトルとおにぎりの包装の突っ込まれたコンビニ袋とぐしゃぐしゃに丸められた毛布だったから、そのやり場にちょっと迷ってごみらしきものは足下に、毛布は簡単に畳んでシートの真ん中に置いたけれど、広い車内では全然邪魔にもならなかった。
わたしが黒いビニールレザーのシートに腰を下ろしたのを確認して、猿野くんはドアを閉めてくれた。
助手席に乗るのだろうと予想していた猿野くんはそのまま車の反対側に回り、ウインドウガラス越しに再び顔を見せるとわたしの隣に乗り込んだ。
バタンと音を立ててドアが閉まるタイミングを図ったように、御柳くんは鍵を捻る。
低く唸るエンジン音と同時に、カーステレオからは渇いたギターと低く掠れたボーカル。
けたたましいけれど、どこか切ない音。
「あ、ごめんな猫湖うるさいの苦手だったろ」
座席の間から身体を伸ばしオーディオ機器を操作しようとする猿野くんを、いいの、平気かも、と止める。
「そっか?ならよかった」
俺この曲好きなんだよ、付け加えた猿野くんが、わたしがうるさい場所ややかましい人が苦手だったことを覚えていたことに遅まきながら気付いてまたびっくりした。
同じ部活で選手とマネージャーという関係ではあったけれど、話すことはほとんどと言っていいほどなかったし、そのほんのすこし話した内容だって多分部内の連絡とか凪ちゃんはどこ行ったのかとかそんなことくらいなはずだ。
わたしが何が苦手かなんて、そんなこと知ってたことがあるともおもわなかった。
おもいもしなかった。
インパラというその車はゆっくりと滑り出す。
猿野くんは窓を全開にした。
1967年生まれだというその車はもちろんパワーウインドウなんかじゃなくて、猿野くんの手動操作によって降ろされた窓からは、車内のものとあまり温度の変わらない空気が緩やかに流れ込み、そして直ぐに風になった。
ハンドルを握る御柳くんもとっくに窓を開けていて、考えてみればお盆も過ぎたといえ季節はまだ夏で、密閉された車内なんてのは夜でもまだ耐えられなく蒸し暑いものなのだ。
わたしも猿野くんと御柳くんを真似て窓を降ろす。
温い風が吹き込む。
窓の外は夜。
街灯が白い光を落としている。
24時間営業のコンビニの緑と白と青の看板が、道標のように進行方向に聳える。
空には星。
夜の底を泳ぐみたいに、わたしの知らない音楽を開け放した窓から零しながら、スカイブルーの車は国道を走る。
猿野くんと御柳くんとわたしを乗せて。
それが1年前の夏の終わりの出来事だった。
季節は夏